ふらっとDAY
敷居が高い?

「普通の方々との家づくりを通して街づくりに貢献したい」と出発したものの、まず直面したのは、その一般の人たちが設計事務所に対して抱いているイメージの偏り。「そろそろ家がほしいなあ」と家づくりを考え始める時、一般的な情報源はといえば、書店にずらりと並ぶ住宅雑誌、束になって毎朝新聞受けに入ってくる建売住宅の広告、ヒーローショーやおまけイベント付きの住宅展示場、あるいはてっとり早く造ってくれる工務店。「設計料が高そうだ」「住宅なんか相手にしないかも」「お金持ちで特別な人相手」といった印象がなぜかついてしまっている設計事務所に、家づくりを考える人たちが気軽に飛び込んでくるはずもありません。  そんな情報量の差を克服して、設計事務所が、ごくごく普通の家づくりについて気軽に相談しに来られる窓口となるにはどうしたらよいか。心の“敷居”をフラットにして、月に一度、「オフィスを一般公開してますよ」と呼びかけたらどうなるだろう?とにかくどうなるかやってみよう、ということで1991年7月第三土曜の午後、友人からの紹介という方をお一人キープして、『ふらっとDAY(敷居のない日)』が始まりました。

ふらっと、気楽に

当初はここでの出会いが仕事に結びつくといいな、とも考えていました。しかし、何より設計事務所の中身をちゃんと理解してもらうことを主たる目的にしたいと考え直し、やはり“営業の場”ではなく、住工房らしさを前面に出して純粋に“情報交換の場”を追求することにしました。また、何か特別なイベントを用意して人を呼び込むことも考えましたが、その案もごみ箱へ。イベントが途切れてしまうと同時にお払い箱になるような『ふらっとDAY』をめざしてはいなかったからです。来る人も、そして迎える我々自身も、とにかく気楽でなければ続かない。こちらが気楽に門戸を開けば、そんな姿勢でいる我々と周波数の合う誰かが、きっと気楽に来てくれるはず・・・。この信念にこだわってみました。おそるおそる蓋を
開けた初日から5年間、一度も休むことなく続いてきている第三土曜の集い。来客がゼロだった日が一回もないというのも、この「気楽さ」ゆえなのかもしれません。『ふらっと・デー』が用意しているのは、誰でも出入りしてくれていい日が毎月あることと、来たからといって何の制約も課せられず、料金もとられないということを説明した案内パンフレット。そして、体と頭を空けたスタッフです。家づくりを考える一つのオプションとして、こんな場もあるのだということを理解してくれる人が毎月一人でも増えたらと、予約が入る日も、そうでない日も、第三土曜の午後はひたすら“人待ちの体制”に入ります。

来る人が主役

いつしか『ふらっとDAY』には、家づくりに関係のある人や、設計事務所ってどんなところで、何者がどんな仕事をしているのか見に来る人のほか、具体的に家を建てることには無関係でもとにかく暮らしの向上を追求している人、何かモノづくりにこだわりを持っている人、そして「今月はどんな人が来るかな?」と、人と情報に関心がある人など、国籍・職業・性別・年齢などを問わず様々な人たちが、三々五々、集まってくれるようになりました。事務所内にある家づくり関連の情報誌や資料、図面、ビデオ等は、その都度、希望に応じて公開していますが、何といっても来て下さる方々の最大の目的は“話すこと”。我々と来客が情報を交換するばかりではなく、この『ふらっと・デー』がより活きてくるのは、そこに居合わせた来客同士が話し込める時。家づくりに迷っている人が、家づくりの先輩から体験談をじかに聞いて決断するきっかけとなったり、家族間で話しを煮つめるバネになったり・・・。また、実践的なところでは元クライアントが現クライアントに床の手入れ方法を伝授していたり、また、もう一方の片隅では、たまたま来ていた誰かが進学・就職相談にのっていたり・・・。『ふらっと・デー』の主導権は集まった人たちにおあずけします。何もお膳立てがないほうが、自由に、誰とでも、何でも話しができるのだということ、あそびや仕事、趣味、社会、文化、環境問題、柔らかい話や硬い話、家づくりとは一見関係のない、いろんな話しを気楽にすることがいかにお互いを理解し合うのに必要かということが分かりました。

建築設計士への課題

街づくりの重大な要素を担う住宅。どんな家やビルを建てる場合にも、一応、建築士という人がどこかで関わっているはずなのに、一向に街はきれいになっていかない。もしかすると、昔、設計士など存在しなかった時代の方が、街全体は調和していたのではないかと思うことすらあります。商業ベースではなく、流行でもなく、投資の対象というのでもなく、住み手と街づくりに焦点を当てた家づくりを設計事務所が純粋に目指す時、乗り越えなければならない“偏った情報”の壁。これからは、設計事務所それぞれがどんな家づくり、街づくりを追求しているのかを、そして、住まい手にどんな手助けができるのかを、きちんと情報発信し、家づくりの重要なネットワークとして、社会の中でより身近なものとして位置付けられるよう、“敷居”の高さを工夫していく努力が必要でしょう。『ふらっとDAY』は、我々に外からの風を吹き込み、設計事務所の役割を見直す機会を我々に与えてくれています。

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